第3話 上陸


「まもなく小樽港に到着します。自動車で乗船の方は自動車にお戻りください」

船内にアナウンスが流れた。フェリーは長い道のりの末、小樽港に入ろうとしていた。窓から外を見ると、小樽の夜景が近くに見えた。目の前に広がる北海道。初めて踏み入れることになる未知なる大地に僕は震えた。でも、自転車で乗船している僕たちも車のある下の階まで行かなければいけない。

 階段を下りていくと、フェリーのエンジン音がたちこめ、機械のオイルや軽油、排気ガスの匂いでいっぱいで、まるで機械室に迷い込んだみたいだった。たいていの車には人が乗り込んでいた。僕らの自転車は、オートバイと一緒に下船するときに開くハッチの左脇においてあった。

 ここは窓が無く、外の様子はまったくわからない。もうそろそろ港に着岸するかと、外の様子を想像していると、ゴンン、と低い音とともに船全体に振動が伝わってきた。急に外の様子があわただしくなった。作業員が走る音、カンカンと何かがあたる音、ウィィィィというモーター音。そしてガッチャン!と音がした。すると、船内の自動車がエンジンをかけはじめ、僕たちの近くのオートバイたちもブオオオ、とエンジンをかけた。船内は一気にエンジン音と排気ガスの匂いでいっぱいになった。しばらくすると、目の前のハッチが開き始めた。上の隙間から夜空がのぞき、それが次第に広がって目の前に小樽港と夜景が広がった。

 周りのオートバイたちは、今放たれんとする動物の群れのようにエンジンの回転音を上げ、それにあわせて僕も足に力が入った。

「自転車から行ってください」エンジン音にかき消されそうになりながらも、作業員が言った。

「自転車は降りて押していってください」これは聞こえない振りをした。横を見るとI君も正面を向いて聞こえない振りをしていた。

小樽港に向かって下り坂の架け橋が出来ていた。僕たちは小樽港の岸壁に向かって相棒に乗って飛び込んだ。

架け橋は金属で、滑り止めのため洗濯板のようになっていた。僕はだだだだだ、とノーブレーキで駆け下りた。そしてコンクリートの岸壁に下りたときは妙に滑らかに感じた。振り返ると、Kさんが押して降りてきていた。その後はオートバイが飛び出してきて、自動車が順番にゆっくりと下りてきていた。

「さあ、これからどうしよう」僕はI君に言うと、「小樽運河見に行く?」

「うん!!」というわけで、夜の小樽運河を観光することにした。

小樽運河というと、なんだか人がいっぱいいて、川があって倉庫があって、別になんとも無かった。・・・と言いたいところだったが、初めての北海道に浮かれて、僕は意味も無く感動してまった。すごいー!きれいー!と、まるで「るるぶ」の写真に載っているお姉さんたちのように感動しているのだった。

ひととおり王道の小樽観光ルートを見学し、夜が遅いこともあって、小樽港の脇にある公園でテントを張って寝ることにした。ちなみにこの公園は、フェリー利用の旅行者ご用達の公園で、まるでキャンプ場のようにテント村ができていた。(つづく)

HOMEへ 目次へ