第11話 弟子屈周辺観光めぐり 晴れの摩周湖

このキャンプ場を気に入った僕は、もう一泊ここ泊まることに決めた。この周辺は、屈斜路湖をはじめ、摩周湖、川湯温泉、硫黄山などの道東観光のメインスポットがたくさんある。また、屈斜路湖の湖岸に沿うように温泉がたくさんある。コタンの湯などの自然の中に湯船だけがあるような、野手あふれる温泉が点在しているのだ。だからここを一気に通り過ぎてしまうのはもったいないのである。

というわけで、キャンプ場に道具一式を置いたままにして、雄大な水の美しい摩周湖を見て、硫黄山の硫黄のにおいを体験し、川湯温泉に入って走ったあとの足を癒す観光ルートを計画した。地図には摩周湖の手前に「360度の絶景!900牧場」というのもあるみたいだ。ここも寄っていこう。

まず、摩周の町に向かって走り出した。昨日摩周から走って来た道をまた20kmほど戻ることになる。久しぶりにキャンプ道具から開放された自転車は身軽で、気持よく軽快に走り続けられる。今回の装備はリュックサックだけだ。

釧路川や牧場を見ながら軽快に摩周の町まで走ってくることが出来た。摩周の町から摩周湖までの区間は、ずっと牧草地帯か森林でお店が存在しない。摩周湖方面に曲がる交差点にセイコーマートがあるので、行動食をここで買うことにする。



摩周湖へ向かう道。ずっとずっとまっすぐ緩い上り。

セイコーマートとは、北海道限定のコンビニである。(※最近は本州でもたまに見かけるようになったが)セイコーマートは、ローソンやセブンイレブンと違って北海道オリジナルというだけあって、商品も北海道限定のものを売っている。例えばジュース。「リボンシトロン」「リボンナポリン」「コアップガラナ」などである。これらをはじめて耳にした人はいったい何なのか想像がつくだろうか。シトロンとかナポリンという、いったい何語なのかもわからない。とくに、「リボンシトロン」、「リボンナポリン」に関して言えば、色は毒々しい緑色とオレンジ色なのに、味がほとんど一緒という、その飲み物のコンセプトさえもまったく謎であった。気になる人は是非北海道で体験していただきたい。

さて、そんなコンビニで安心できる食料品(※安心といっても、別に危険なものを売っているという意味ではなく、僕が良く知っているものという意味で)を買い込み、摩周湖を目指して漕ぎ出した。

摩周湖はもともと噴火口に水がたまってできた湖である。だから当然山の上にある。摩周の町からは緩やかだがずっと上り坂である。しかも緩やかで広大な北海道の地形に作られた道は、とにかくずっとまっすぐなのだ。景色が変わらずだらだらと続くまっすぐ登りは退屈できつい。地図には、ちょうど真ん中ぐらいまで上がったか、というところに900牧場があることになっていた。ちょうど休憩するのにいいところだ。

僕は立ち止まって例の展望台を探して見渡したがそれらしきものがなかった。近くに牧場の倉庫があり、作業している人がいたので聞いてみた。

僕が「900牧場はどこですか?」と聞くと、その人はもう僕が質問することを知っていたかのように「これはここには無いよ」といった。そしてその人は続けた。「本当はここにあって(地図の地点を指差して)この地図が間違っているんだ」といった。どうやら地図が間違っていたみたいで、ここの人はもう何人も同じ質問を受けているみたいだった。

 




摩周湖。静かで、風の音だけが聞こえた。


「ま、いいか」と、気を取り直してまたペダルを踏み出す。

摩周湖に続く道は、摩周湖に近づくにつれて傾斜がきつくなってくる。ちょうど摩周湖の外輪山に向かって登っているのである。いつの間にか結構な標高をあがったみたいで、道路からは摩周の町や屈斜路湖、川湯の町や硫黄山などの地形をきれいに見渡すことができる。まるでジオラマを上から見ているようだ。ほう、あそこが僕が今朝でたキャンプ場だな、とか、硫黄山は結構小さいんだな、とか、はるか遠くまで見渡せる雄大な景色を楽しみながらペダルを踏んでいると、摩周湖の展望台についた。

 

摩周湖は「霧の摩周湖」と呼ばれるくらい霧の日が多いところで有名である。僕が来た時も、ここまで上ってくるまでは青空でよく晴れていたのに、霧は無いものの、自分の頭のうえはなぜか曇り空になっている。見渡すと、どうやらここの上だけに雲がかかっているみたいだ。どうしても青空の摩周湖が見たくてしばらく天気を待つことにした。

展望台から少し離れて、獣道みたいな道の奥に静かで、景色のよいところがあったのでそこでゆっくり過ごすことにする。そこは笹の草原のようになっていて、ダケカンバの木がまばらに生えている。人工の音が全く無く、よく耳を澄ますと、かさかさという風が笹を揺らす音と、遠くで風が山に響いている音が聞こえる。摩周湖はとても深い青色で、水面を風が駆け抜けて小波が立っているのが見える。しばらくするとだんだん明るくなってきた。空を見上げると速い速度で雲が走っている。そして、ほんのひととき、くもの隙間から青空が見えた。急いでセルフタイマーをセットして写真を撮った。初めて来て青空と摩周湖を一緒に撮影できて僕はとても満足した。青空を待った甲斐があったというものだ。「初めて摩周湖を見たときに晴れていた人は結婚が遅くなる」というジンクスなんてどうでも良かった。


硫黄山の噴出孔。危ないのであまり近づかないように。

摩周湖から、長い下り坂を気持よく下ると、程なくして川湯へ下りてきた。もう硫黄山は目の前だ。硫黄山というからにはある程度山を登らなくてはいけないのかと思っていたが、目の前に来て拍子抜けした。森を抜けると、平原に硫黄が噴出している溶岩ドームが現れる感じなのだ。駐車場に自転車を置き、噴煙をごうごうと上げているところまで歩いていく。噴煙を噴出している場所の周りは活火山特有の硫黄の匂いが立ち込めていて、草木が一切生えていない。近づくにしたがって硫黄のにおいがきつくなってくる。

シュゴー!すごい!噴出孔は思った以上の迫力だ。地球の力を目の当たりにした感じだ。見渡すと、いたるところでシューシューと噴出していて、その先は硫黄の成分が積み重なって黄色い山のようになっている噴出孔がある。すごい力が地面の下から押し上げていて、地面の割れ目から漏れ出しているように見える。焼いているお餅が膨らんで、今にも破裂寸前!という感じだ。地面は熱く、棒で強く突くとバン!と破裂しそうな気がした。

僕は近くにいたライダー風の旅人に声を掛け、写真の撮影をお願いした。この旅人は初対面のくせに冗談がきついのか、僕に「もっと(噴出孔に)近づいて、近づいて」というのだ。写真をお願いしただけに逆らうことができず、すごく熱いのを我慢して撮ってもらった。

 


僕のベスト温泉。家族が普通に入ってくる。ちょっと熱め。

硫黄山の噴煙を堪能し、すぐ近くにある川湯温泉に行ってみることにする。さすがに温泉で有名な観光地というだけあってホテルが並んでいる。無料の温泉がいっぱいあるのに、わざわざお金を払ってまで温泉に入る気にならない。これならここをパスしてキャンプ場に戻って温泉に入ったほうが良さそうだ。

夕方、キャンプ場に戻ると、どこかのサイクリング部だろうか、大人数の集団がテントを張っていた。大きな鍋を出して夕食の準備をしている。僕も同じように米を焚いたり、晩御飯の準備をした。

ご飯を食べて、ひとっ風呂浴びて、夕食の片づけをしに炊事場へ行くと、炊事場は食器を洗う人たちで込み合っていた。僕は開いている隅っこで食器を洗った。すると、隣の若い子が困っているようだった。どうやら洗剤が無くなって洗えないみたいだ。僕は「洗剤が無いの?これ使う?」と声を掛けると、炊事場にいた僕以外の全員が「ありがとうございます!」と急に明るくなった。どうやらさっきのサイクリング部の1年生たちで食器洗い係みたいだった。彼らの前には大量の食器が山積みになっている。当然このあと前日に買ったばかりの洗剤は空っぽになり、謝りに来たが、「ああ、ええよええよ・・」と笑って答えた。 (つづく)

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